No.441 賃貸住宅の新建材の刺激臭

2013-04-22
(横浜地判 平10・2・25 判時1642-117)

新築賃貸住宅の賃借人が新建材の刺激臭により化学物質過敏症に罹患し、退去せざるを得なくなったとして、賃借人に損害賠償を請求した事案において、賃借人に過失はなかったとして、その請求を棄却した事例。
(横浜地裁 平成10年2月25日 判決 控訴 判例時報1642号117頁)

■事案の概要
借主Xは、平成5年6月、媒介業者Aの媒介で、貸主Yから、新築賃貸住宅を賃料21万円で借り受け、入居した。
入居数日後、Xは、本件建物に異常な刺激臭があるとして、Y、A、建築業者らに訴え、また、市公害課にも同様の訴えをした。その結果、電気工事担当者Bが空気清浄機2台を無償貸与し、市の指導でさらに3台が設置された。
しかし、Xは、その後まもなく退去し、9月30日、契約を解除して、住宅を明け渡した。Xは、Yに対して、新建材のホルムアルデヒドによる異常な刺激臭により健康被害を受けたとして、債務不履行等による損害賠償387万円を求めた。

■判決の要旨
これに対して、裁判所は、次のような判断を下した。
  1. Xは本件建物に入居後異常な刺激臭により頭痛、化学物質過敏症による健康被害を受け、この悪臭は本件建物に使用したホルムアルデヒド等の新建材特有の臭気と接着剤等から発生する化学物質によるものであること。
  2. 建物の賃貸人は、賃借人に通常の使用に適する状態で目的物を提供する義務を負うので、Yとしては臭気の発生につき過失がなかったことを立証すべきであるところ、化学物質過敏症は最近において注目されたが、未だ学会で完全に認知されていないこと。
  3. 本件建物建築時、一般住宅建築につき施主、施工者がこの症状の発症の可能性を現実に予見することは不可能ないし著しく困難であったこと。
  4. 本件建物に使用された新建材等は一般的なもので特殊なものではないこと。
  5. 化学物質過敏症は一旦発症すると極めて微量の化学物質に反応し、その完全防止には新建材を使用しないしかなく、一般的には経済に問題のあること。
  6. 化学物質過敏症の発症は各人の体質とも関係し、必ずしもすべての人が同一環境の下で必然的に発症するものではないこと。
  7. また、YはXに、換気に注意する様指示したほかに、空気清浄機の設置をしていること等からすれば、
  8. Yとしては、本件建物建築につき、居住者が化学物質過敏症を罹患することを予見できないとし、
  9. また、臭気の発生をXから指摘された後の結果回避義務に違反したとも認められないとして、
  10. Yに過失はなく、Xの請求には理由がないとして、棄却した。

■まとめ
最近、シックハウス症候群が騒がれているが、訴訟で判決が出たのは、初めてであろう。 本件は、使用された新建材は特殊なものではなく、化学物質過敏症には個人差があり、賃借人は空気清浄機の設置等の対応をしており、賃借人に過失はないとした。 同種事案について、参考になる点が多いと思われる。

(記事提供:財団法人不動産適正取引推進機構/RETIO)

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