No.444 暴力団事務所と瑕疵担保責任

2013-04-22
(東京地判 平11・6・15 判例集未登載)

住宅地の土地の売買において、契約締結当時真向かいの建物が暴力団事務所で、組員が常駐していたが、外観上明らかでなく、売主及び媒介業者がその事実を知らず、告知しなかったところ、その後同事実が判明した事案において、売主に対し、9%の損害賠償を命じ、その責任を否定した事例。
(東京地判 平成11年6月15日判決 確定 判例集未登載)

■事案の概要
買主X1は、平成3年11月29日、元付業者Y2及び客付業者Y3の媒介で、売主Y1から、志木市内の土地(120・09m2)を、当面資材置場、将来居宅建築目的で8,330万円で買い受け、同年12月24日、X1、X2、X3共有名義で所有権移転登記をした。 本件土地上には建物があり、Dが賃借していたが、Y1は平成3年5月Dに退去を求め、建物を取り壊して、Y2に売却の媒介を依頼した。Y2は、物件情報に「住環境良好」と表示し、これを見たY3はX1に紹介した。しかし、本件土地の道路を挟んだ南東側の真向かいの建物は、もとCが住居兼割烹として使用していたが平成2年3月、CがB(指定暴力団組長)に売却して、登記が移転され、B組組員が常駐していた。
地元警察署は、同年9月頃、同建物は組事務所と認識していたようであるが、組員らの徘徊もなく、外観上明らかな状況ではなかった。また、Bが居住していたとは、認められない。 Yらは、本件建物にB組組員が常駐している事実を知らず、平成3年11月29日、本件契約の重要事項説明の際、暴力団事務所の存在及びB組組員の常駐について説明しなかった。また、Xらも、本件土地見分の際、組員常駐に気がつかなかった。
X1は、平成4年3月、本件建物に暴力団組員とおぼしき者がいたため、近隣の人に尋ねたところ、前面道路には窓ガラスを濃色でコーティングされた車が駐車されていたり、暴力団関係者とおぼしき者の出入りがあり、暴力団事務所として使用されているらしい旨を聞いた。 Xらは、平成4年6月、内容証明郵便で、本件売買契約について詐欺による取消、又は瑕疵担保による契約解除の意思表示をした。 平成5年6月、本件建物で発砲事件が発生した。
その後、同建物は、出入口が格子戸から金属扉に取り替えられ、2階の窓に鉄格子設置され、壁面に監視カメラ及び照明設備等が設置された。 Xらは、平成8年6月、〈1〉主位的に、Y1に対し、詐欺取消、錯誤無効、瑕疵担保責任による解除を理由に支払済の代金の返還を求めるとともに、Y2、Y3に対し、媒介契約または信義則上の保護義務違反を理由として損害賠償を求め、〈2〉予備的に、Y1に対し、瑕疵担保責任に基づく損害賠償を求めた。 なお、〈1〉Y1の借家人Dは、Y1の建物取壊後、斜め筋向かいの借家に転居し、〈2〉B建物の隣に平成3年秋住居が新築され、〈3〉B建物の向いの公園は、平成3~5年夏祭りの神輿の休憩所として使用されており、〈4〉B建物の周辺で因縁をつけられたり、B組組員常駐を理由に転居したものはいない。

■判決の要旨
裁判所は、次のような判断を下した。
  1. 詐欺取消の主張については、本件売買契約締結当時、B建物にB組組員が常駐していたことをY1が知っていたとは認められず、また、Y1の故意を認める証拠もない。
  2. 錯誤無効の主張については、
    〈1〉本件契約において、近隣に暴力団事務所の存在しないことが表示されていたとは認められず、
    〈2〉また、住環境の良い土地と表示されて売買された場合でも、近隣に暴力団関係施設が存在しないことを当然に意味するものとして用いられたということはできない。
  3. 瑕疵担保責任については、
    〈1〉B建物の存在は、本件土地の瑕疵にあたるが、物理的瑕疵ではなく、抽象的危険性ないしは心理的要因による瑕疵であって、
    〈2〉本件土地は、B建物の存在により使用に支障を生じておらず、近隣土地、前面道路、公園も支障なく使用されているから、本件売買の目的を達成できないといえない。
  4. 本件売買当時の本件の隠れたる瑕疵による減価の程度は、9%の減価が相当であり、750万円となる。
  5. Y2らに対する請求については、Y2らはB建物にB組組員が常駐していたことを知っていたとは認められず、また、Y2らにその調査義務があったとは認められないから、Y2らに対する請求は、認められない。
  6. よって、Y1は、X1に対し、750万円を支払え。

■まとめ
暴力団事務所に関する判例については、売主業者の用地担当者がその存在を知っていた場合に2割の損害賠償を求めた事例(東京地判 平7・8・29 判時1560-107)、暴力団組員が居住するマンションについて、通常人にとって明らかに住み心地の良さを欠く状態に至っていたとして、1割の損害賠償を認めた事例(東京地判 平9・7・7 判夕946-282)、賃借人が暴力団組員である中古マンションの売買について、錯誤無効には当たらないとした事例(東京地判 平成9・10・20 判夕973-184)がある。 これまで、心理的瑕疵については、「通常一般人において住み心地の良さを欠き、居住の用に適さないと感ずることに合理性があることを要する」とされているが、(横浜地判 平成1・9・7 判時1352-126)本件判決は、抗争に巻き込まれるという抽象的危険性や因縁を付けられる等のおそれがあるという心理的要因による瑕疵を認めた点、興味深い判決である。

(記事提供:財団法人不動産適正取引推進機構/RETIO)

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